SMILESとは? About

超伝導サブミリ波リム放射サウンダ (SMILES; Superconducting Submillimeter-Wave Limb EmissionSounder) は国際宇宙ステーションの日本実験棟曝露部を利用して、成層圏大気中の微量分子を高感度で測定し、地球規模でその分布と変化を明らかにします。このため、 SMILES は世界に先駆けて高感度の超伝導センサを採用し、今後の地球観測の発展に新しい可能性を拓きます。
SMILES は、JAXA 及びNICT (情報通信研究機構)の共同ミッションとして、研究開発が実施されています。

背景

オゾン層破壊や地球温暖化など、人類の活動に起因する地球大気の変化が深刻な問題となっています。オゾン減少の大きな原因は、クロロフルオロカーボン、ハロゲン含有物質などの人為起源物質に由来する塩素や臭素関連物質です。 1987年にモントリオール議定書 [United Nations Environmental Programme, 1987] とその修正条項の採択によって下層大気のオゾン層破壊物質の存在量は1994年にピークとなり、現在は減少傾向にあります。 WMO の報告 [2006]によるとオゾン量が1980年代 の状態に戻るには2060-2075年までかかると見積もられていますが、化学気候モデルによる南極におけるオゾン量の将来予測には 大きなばらつきがあります。また、オゾンの減少は極域だけでなく中・低緯度にも見られます。さらに、オゾン、二酸化炭素や水蒸気は地球の熱収支に影響を与え、気候変動にも大きな役割を果たしています。

これらの状況を把握し来るべき将来を評価するためには成層圏のオゾンと微量分子分布の3次元同時測定を行う必要があります。また、時間的および空間的に高精度なデータを地球全域にわたって得ることが重要です。宇宙からのサブミリ波帯域のリム観測によって、地球大気中に生じている微量分子の重要な変化をグローバルに知ることができます。

SMILESは、国際宇宙ステーションの日本実験棟船外実験プラットフォームを利用して、成層圏大気中の微量分子を高感度で測定し、地球規模でその分布と変化を明らかにします。このため、SMILES は世界に先駆けて高感度の超伝導センサを採用し、 今後の地球観測の発展に新しい可能性を拓きます。

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科学目標

科学目標

SMILESの観測の最も大きな特徴の一つはサブミリ波帯域で大気のリム放射を高感度で測定することです。 下の図はSMILESが観測するリム放射スペクトルの例です。SMILESが観測する分子は

O3 (オゾンとその同位体)、BrO、CH3CN、ClO、HCl、HNO3、HOCl、HO2

であり、主にオゾン破壊に関連しているハロゲン化学に焦点をあてた観測によって、ラジカル分子種の変動と その影響を解明します。SMIELSの観測するラジカル分子種の中のいくつか(例えばBrO)は、今までの衛星測器では 精度よく測定されなかったもので、SMILESによってはじめてグローバルな分布が明らかになります。

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観測装置

SMILES は超伝導ミクサ( SIS ミクサ)を用いたヘテロダイン受信機を搭載し、 625 - 650 GHz 帯でリム放射の観測を行います。 SMILES のアンテナ( ANT )はサイズ 40 cm x 20 cm のオフセット・カセグレン鏡で、観測高度にして約 3.5 km - 4.1 km の分解能を達成します。 ANT は駆動機構によって高度方向に走査され、上部対流圏( 10 km )から下部中間圏( 60 km ) までをカバーします。

観測装置
地球大気からのサブミリ波信号は、 ANT によって集光された後、サブミリ波受信機系( SRX )へと伝送され、サブミリ波局部発振器( SLO )からの基準周波数信号( 637.32 GHz )と共に、収束鏡、ワイヤ・グリッド、サイドバンド・フィルタといった準光学素子を通って SIS ミクサで受信されます。2 台の SIS ミクサは、それぞれ基準周波数に対して高周波側( USB : 649.12 GHz - 650.32 GHz )と低周波側( LSB : 624.32 GHz - 626.32 GHz )の信号を同時に 11 - 13 GHz の中間周波数( IF )信号へと変換します。この IF 信号は、中間周波変換増幅系( IFA )においてさらに低い周波数の信号へと変換・増幅され、最終的には電波分光系( AOS )によって分光されます。
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データ処理システム

SMILES の地上データ処理システムはテレメトリ受信およびコマンド送信を行う実験運用システム( Experiment Operatins System; EOS )とデータ処理システム( Data Processing Systems; DPS )から構成されています。 DPS はさらにレベル0・レベル1データを扱う DPS-L0/L1 とレベル2データを扱う DPS-L2 の二つの設備に分かれています。 SMILES の観測データはまずはじめに筑波宇宙センターのユーザ運用エリア( User Operation Area; UOA )にある DPS-L0/L1 に降ろされます。 DPS-L0/L1 では衛星の状態監視データと科学データを即座にレベル1Bデータに処理し、定期的にネットワークを介さない媒体によってデータサーバに移されます。一方、 DPS-L2 は自動的にデータサーバからネットワークを経由してレベル1Bデータを取得し、レベル2データへ処理を行います。レベル2データは HDF-EOS フォーマットに変換され、ウェブサーバを通じてユーザーに提供されます。

2010年4月に観測が停止した後は、レベル1・レベル2それぞれの処理システムに改良を重ねながら、各データの再処理を実施しています。

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検証方法

これまでの衛星観測データの検証としては、地上観測や人工衛星からの観測データとの比較が長年にわたって行われてきました。SMILESの観測データの正当性についても同様の比較検証を十分に行い、SMILES のデータはそれらと遜色がないか、より高精度な結果を出していることが判ってきました。

原理的に、SMILES 装置は従来の宇宙機搭載の観測センサよりも高感度であるので、SMILES のデータの優位性を示すためには従来の観測データ以外の情報と比較して、科学的妥当性を補強する必要があります。

SMILES の観測データと地球大気の微量成分分布を計算する複数の数値モデルの計算結果とを比較したところ、よい一致を示すことが判ってきています。SMILES 観測とモデル計算とは独立に行われており、かつモデル計算には SMILES 観測当時の気象条件が入力されているため、それらが一致するということは、SMILES が観測した期間のグローバルな微量成分分布をモデル計算でも確かに捉えたということができます。

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